ニュースの概要
マレーシアの決済基盤を運営するPayNetが、Ant InternationalのAlipay+とつながり、海外でのDuitNow QR決済を始めた。対応する銀行アプリの利用者は、中国本土、香港、韓国、フィリピン、ラオスの参加店舗で、Alipay+のロゴが付いたQRコードを読み取って支払える。使い方は、アプリ内のDuitNow QR機能を開き、店頭のQRを読むだけである。現時点で対応するのはMaybank、CIMB、Hong Leong Bankの3行だ。旅行者は現地通貨の現金や海外向けカードを用意しなくても、普段使う銀行アプリで支払いを済ませられるようになる。
引用元: PayNet、Alipay+経由でマレーシアのDuitNow QR海外決済を開始(Business Wire)
分析・見解
国内の共通QRが、海外の店頭までつながった
DuitNow QRは、マレーシア国内で銀行や電子マネーの違いを超えて使える共通のQRコードである。店は一枚のコードを掲げれば、どの銀行の客からも代金を受け取れる。今回の発表は、その国内の仕組みに海外という出口を足したものだ。
注目したいのは、PayNetが各国と一つずつ契約を結ぶ道を選ばなかった点である。Alipay+という既存の接続網に乗れば、一度の接続で複数の国と地域に同時に広がる。中国本土、香港、韓国、フィリピン、ラオスが一度に並んだのは、そのためだ。
一対一の提携から、つなぎ役を介した接続へ
これまでの越境QR決済は、二つの国の中央銀行や決済会社が個別に結ぶ二国間提携が主流だった。東南アジアでは、マレーシア、タイ、シンガポール、インドネシア、フィリピンの間でQR決済を相互接続する取り組みが進んできた。ただし、相手国が増えるほど調整の手間は雪だるま式に膨らむ。
Alipay+は、この手間を肩代わりする。各国の決済手段と店舗側の読み取り端末の間に入り、通貨の換算や認証の違いを吸収する。身近な例えでいえば、国ごとに形の違うコンセントに差し込める変換プラグを、決済の世界で用意したものだ。PayNetは自前で各国用のプラグを作らず、既製品を採用したことになる。
為替と手数料の設計が、使われ方を決める
QRが読めることと、日常的に使われることは別の話である。利用者にとっての決め手は、為替レートの上乗せ幅と手数料だ。クレジットカードの海外利用では、為替手数料が数パーセントかかることが多い。QR決済がそれより明らかに安ければ、旅行者は財布の中でQRを先に選ぶ。
店舗側にも計算がある。QR決済の導入は端末代が安く済む反面、決済手数料の水準次第では、現金やカードのほうが得になる。今回の接続では、店側はすでにAlipay+に対応していれば追加の設備投資が要らない。この点が、参加店舗の多い中国や韓国、香港で早く効く理由である。
対応3行の限定が示す、これからの広がり方
対応が大手3行にとどまることは、弱点であると同時に、段階的に広げる設計でもある。決済の不具合は、旅行先では解決が難しい。まず利用者の多い銀行で動作を固め、問題がなければ他の銀行や電子マネーに広げる。このやり方は、日本のQR決済がじわじわ海外対応を増やしてきた経緯とも重なる。
独自の視点を一つ加えるなら、この動きは旅行者向けの便利機能にとどまらない。マレーシア人が海外で使う回数が増えれば、データを通じて、どの国でどんな店に需要があるかが見え始める。反対に、将来Alipay+を通じて海外の客がマレーシアの店で払う流れが育てば、同国の小売店は大きな訪日、訪マ客層を取り込める。双方向になったとき、本当の価値が出る。
ビジネスへの影響
海外客を迎える店は、QR対応を再点検したい
アジアからの旅行者を受け入れる店舗や宿泊施設は、自店がAlipay+に対応しているかを確認する価値がある。対応済みなら、マレーシアの客も同じ読み取り機で支払えるようになる可能性が高い。新しい端末を買わずに、客の層だけが広がる形だ。
ただし、導入前に確認すべき点がある。決済手数料の率、入金までの日数、返金や取消しの手順である。為替の扱いも見落としやすい。客が自国通貨で払い、店は現地通貨で受け取る場合、為替差損を誰が負うのかを契約書で必ず確かめたい。
決済や金融サービスを作る側は、接続の選び方を見直す
決済事業者やフィンテック企業にとっての示唆は、自前で全部つなぐより、既存の接続網を使うほうが早いという点である。ただし、つなぎ役に依存しすぎると、手数料の主導権や顧客データを握られるおそれがある。接続網は複数を比較し、乗り換えられる余地を残しておくのが賢明だ。
具体的には、三つの手順を勧める。一つめは、自社の主要な顧客がどの国へ渡航するかを調べること。二つめは、その国で主流の決済手段との接続を優先すること。三つめは、最初は対象を絞り、利用率と問い合わせ件数を見ながら範囲を広げることだ。今回のPayNetが3行から始めた進め方は、そのまま参考になる。